珍妙でかっこいい女の子の話
- kinako152 .
- 2016年4月25日
- 読了時間: 2分

去年の夏、旅先の那須で、ペンションの人とちょっと親しくなりました。 その小さな宿を、1人で頼もしく切り盛りしていた、20代の女性。 こんな若い人が、遠く地元を離れて那須にいるなんてすごいなぁ、 くらいのすっごく軽い気持ちで、いろいろ尋ねてみたんですよ。 すると彼女は、なんとも珍しい人でした。 もともと英語の先生をしていたという彼女は、 外の世界を知ろうと思い立ち、世界一周豪華客船の乗務員に転職をした後、 地上の暮らしにそろそろ戻るかということで、1年前に那須にやってきたらしいです。 自分探しをしに海外に行ったり、そういう団体に参加する人は知ってたけど、 世界一周豪華客船に乗って、海の上で何年も働いた人には初めて会いました。 しかも、よくよく聞けば、この宿もあと1週間で辞めるって言うんです。 で、次は浅草で人力車夫になるなんて、 豪華客船に乗るよりもさらに珍しいことを言い出しました。 そして数ヵ月後、彼女は本当に浅草に引っ越したんですね。 これは確かめに行かねばと、だんなと2人で浅草に出向いたんです。 たくさんの男性人力車夫さんが呼び込みをしている中、 長かった髪を耳までスパッと切った彼女が、人力車夫の格好で現れました。 冷たい風をきって、私とゴーキョーを乗せた車を、 その名のとおり人力で走らせる女の子の姿は、これまたすごく珍しかったですよ。 これで、彼女のお客さんになるのは2回目ってわけです。 1回目は、彼女の作ったご飯を食べたり、整えてくれた布団で寝たりしていたのに、 今度は彼女が押す人力車で浅草を走るなんて、なんとも珍妙で不思議な気分でした。 しかも、来月からまた別の地で新しい仕事をすると言うんですよ。 恩師の紹介で、母校にある柔道部の顧問を務めることになりました、と。 そう、彼女のこのたくましさは、学生時代の柔道経験からきたものだったんです。 ハイスピードでいろいろ巡り巡った後、かつて自分の育った場に顧問として戻るなんて、 めちゃくちゃかっこいい人だなと思いました。 そしてやっぱり、”元・浅草の人力車夫”という、世にも珍しい先生になるんだなぁと。 彼女の3回目のお客になるためには、どうすればいいんでしょうかね。 高校なので、入学は不可能じゃないとしても、柔道はできそうにないです。 いっぱつ投げられとこうかなぁ、と一瞬よぎりましたけど、 絶対痛いので言いませんでした。
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