【昔ながらの銭湯に行ってみた・その3】素直に初めてと言えなくて
- kinako152 .
- 2016年8月25日
- 読了時間: 1分

番頭さんは女の人だった。
風呂上りのおじさんたちといっしょに、テレビを見ている。
番台の前に突っ立った私を見て、「460円だよ」と笑った。
これは、コンビニで言われる「460円になります」と同じ意味じゃない。
「こういう銭湯はね、460円なんだよ」というガイドをしてくれたと、すぐにわかった。
ひと目で初心者だとバレたのだ。
私はギクッとした。あっちに座っているおじさんたちにも、バレただろうか。
20代の頃だったら、「初めてなんです」と言えたような気がする。
母親よりもずっと年上のおかみさんだ。
今だって素直に甘えればいいのに、初めてじゃないフリをしてしまう。
小銭をあさっていると、「ぱんなこったって寒天?」と聞かれた。
夕方のワイドショーで、パンナコッタの話をしていたのだ。
「卵白だけのプリンですよ」と答えたら、みんなが「なるほど」となった、ように見えた。
かっこ悪かった分を取り戻せた気分。
年季の入ったロッカー室でも、なるべく堂々と裸になる。
浴場でも、もの珍しい目つきにならないように気をつけた。
が、バレている。おばさまたちが、目で私を追っているのだ。
これはもしや、なにかルールがあるのかもしれない。
まちがえないように、怒られないように、そーっと体を洗った。
パンナコッタに卵白なんて使わないと知ったのは、帰ってからである。
Comments